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聞こえる――(星屑に夢視て 上) [小説Ⅲ]

お久しぶりです!

いや、もう本当にお久しぶりですね。すいません亀更新で。

で、やっと友人から頼まれていた短編小説が完成しましたので、UP。

でもね、はじめてかく分類の上に、ものすごく駄文なのです。

読む気ないし、興味ないよ!って方もいらっしゃると思うので、

ここでワンクッション置こうと思いまして・・・

短編でも、ひとつの記事に載せるのでは長いので、

上と下に分けさせていただきました。

聞こえるシリーズです。
聞こえる―― 星屑に夢視て

琴胡の家は、貧しくも裕福でもなかった。
ごく普通の家庭に生まれた彼女は、
ごく普通の夢を持ち、ごく普通の暮らしをしていた。
そんな彼女と出会ったのは、今から二年前、
僕らが高校三年生の頃だった。
成績順にクラス分けされる私立高校に通っていた僕らは、
その春、同じB組のクラスメイトとして顔を合わせた。
今までA組だった僕は、三学期末に体調を崩し、
A組の中でも後ろのほうだったこともあってか、
三年生になってB組に落とされてしまったのだ。
A組の生徒は、全員というわけではないが、
A組の一員であることを鼻にかけていた。
そんなA組の生徒を、B組の生徒が良いように思うはずもなく、
下手をすれば僕はクラスの中で孤立すること間違いなしの状況だった。
そんな僕に、優しく笑いかけてくれたのは彼女だけだった。
彼女はけして男子にもてる方ではなかったが、
彼女の笑みには、どこか人を惹きつける力があった。
そんな彼女に、僕が一目ぼれしたのは言うまでもない。
B組の中で一番成績の良い彼女と僕は席が隣で、
彼女は気さくに僕に話しかけてきた。
彼女に悪気は無いのだろうが、
僕にとってその一言はとても耐え難いものだった。

「永太郎君って、いつも寝てるんだね。」

それは、きっと誰もが僕に対して思っている感情だろう。
しかし、それは僕にはどうしようもないことだった。

「特発性過眠症」

25歳以下で発症することが多い比較的稀な疾患であり、
ほぼ毎日のように日中の過度な眠気が出現する過眠症の一種。
夜の睡眠時間が少なくとも12時間以上に及び、
夜間の睡眠時間が長いのにもかかわらず、
朝の目覚めが容易ではなくなる。
日中の居眠りは最低でも一時間に及び、
どれだけ睡眠をとってもはっきりとした覚醒ができない。
また、片頭痛、手足の冷えなど、
自律神経系の機能不全を伴うことが多く、
未だに治療薬は開発されていない。

発症したのは高校一年生の秋ごろだったと思う。
生まれ育った故郷から離れ、名門私立に入学した僕にとって、
それは死の宣告に等しかった。
北海道の古くからの農家に育った僕は、
当然のように農家を継ぐつもりでいた。
しかし、僕は元々頭の良いほうだったから、
両親がせめて高校ぐらいはと、無いお金をかき集めて、
入学資金を作ってくれたのだ。それを無駄にはできなかった。
そのため、寝ていないときはほとんど勉強詰めで、
日に日に溜まっていく疲労と、落ちていく成績の中で、
僕は絶望に打ちひしがれていた。
支えが欲しかったのだと思う。
僕の抱える不安も何もかもを、聞かずに包み込んでくれる誰かを、
木漏れ日をまとったかの様な彼女を、僕は欲していた。
鈍感な彼女に気持ちを伝えるのは容易なことではなかったが、
試行錯誤した後に、やっと僕は彼女を手に入れた。
それからは、とても穏やかな時がすぎていって、
自分でも驚くほどに、僕のストレスや不安といったものは軽減されていった。

音大に入って作曲家になる。それが彼女の夢だった。
一緒に高校を卒業して、別々の夢に向かって歩き出した僕たちは、
忙しくも充実した生活を送っていたと思う。
僕は無理言って農業大学にいかせてもらいながら、
バイトで生活費を稼いでいた。
高校生のときよりもかなり重労働なはずなのに、
不思議と心は軽かった。ただ、彼女のそばにいたかったから。
それでも、時はそれを許してはくれなかった。
母が心不全により倒れ、僕は大学を中退することを余儀なくされたのだ。
故郷にもどり、父の手伝いをすることが、僕に残された唯一の道だった。

どうして、とか。彼女はそんなこと聞かなかった。
きっと、僕が別れ話を切り出すことを、
彼女も薄々感づいてはいたのだろう。
どんなに好きでも、愛していても、一緒にいられないこともある。
しかたのないことだ。
たぶん、「愛してる」なんて気持ちではなかったと思う。
「愛してる」の基準さえわからない僕らには、
「愛してる」よりも「好き」のほうが似合っていた気がする。
彼女に全てを話し、別れを切り出した時、
彼女は僕から一度も目を離さなかった。
何も明かさずにいた僕を責めもしないで、
彼女は哀しそうに微笑して、それでも真っ直ぐに僕を見て、
こう言ったのだ。

「そっかぁ。私じゃ、永ちゃんのそばにはいられないんだね。
永ちゃんにとって私は、これから先も一緒に居てもいいって思える人じゃないんだね。」

違う、とは言い切れなかった。
彼女の言葉は的を得ていたから、
僕は何も彼女に言う事が出来なかった。

別れの時は、思ったより落ち着いていて、
二人とも涙は流さなかった。
別れを切り出した時から、何となくお互いに、
この関係に冷めた感情を抱いてしまったのかもしれない。
もう二度と会えなくなるわけではない。
それでも、遠距離恋愛でもいいから、
この関係のままでいたいとは、お互いに思わなかったのだ。
それはもう、恋の終わりだった。

「元気でね。」

彼女は一言そういうと、僕の言葉を待たずに、
その場から立ち去った。
遠ざかっていく彼女の後姿は酷く悲しそうに見えて、
僕は彼女を引き止める事が出来なかった。

nice!(16)  コメント(4) 

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コメント 4

まろり〜な

ちっとも駄文じゃないですよ!
いや~・・・いつも思ってたけど・・・・
言葉選びが上手いなあ♪
・・・これ・・・悲しいお話の予感が・・・?
早く次が読みたい!

by まろり〜な (2010-01-23 09:12) 

憩

早速読ませてもらったぞ。
最近村上春樹の小説を読んだんだが、
言葉の節々にそれと似たような感覚を覚えた。
短編小説でここまで引き込まれたのは初めてだと思う。
いいものを見せてもらったよ。
下も楽しみにしてる。
by (2010-01-23 20:25) 

mee

私は本を読まないので評価をさせてもらいませんが、、、
こんな風に書けること、尊敬します。
by mee (2010-01-24 08:44) 

彩

まろり~なさんへ
何というか・・・
まろり~なさんは察しがいいですね。
そんな感じです。

憩へ
そんなたいそうなもんじゃないですよ!
実は元になっている歌があるんです。
憩も歌ったはずですよ。

meeさんへ
ありがとうございます!
そんなたいそうな文ではありませんが、
これからも頑張ります!

by (2010-01-24 19:52) 

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