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第二TOKYO-revive-(第一章)P5君の名は・・・ [小説Ⅱ]

第二TOKYO-revive-
第一章 君の名は・・・

電気の消えた、いや、故意に消された斗織の研究室に、キーボードをたたく音が響いている。

明かりといえば、パソコンから発せられる光と、卓上ランプの白すぎるほどの光だけだった。

薄暗い研究室に、長細い光の影が落とされる。自動ドアの機械音が不気味なほどに強く低く響いた。

「斗織、解析終わったか?」

「あぁ。」

キーボードをたたく手を止めず、秋生の問いかけに答える。

研究室という堅苦しい場所には似合わない、ピンクのマグカップが事務机におかれ、

なみなみと注がれたコーヒーに、卓上ランプの光が鈍く反射していた。

ピンクのマグカップは斗織の趣味ではなく、あの新米研究員からのプレゼントで、

露骨に好意を感じさせるものだった。

「知ってるか、日本の外では、夜には空に星が見えるんだとよ。」

秋生が突然妙なことを言い出すものだから、斗織は思わず苦笑してしまった。

2486年四月九日、核爆弾戦争終結。以後、非参加国の日本以外の国の土地は60%が砂漠化し、

放射線に汚染された。放射線から日本を守るため、2486年七月九日、日本ドーム化計画発動。

2490年には、日本は完全にドームに包まれていた。

空が恋しい、誰もが一度はそう思い、激動の世界の中で、その思いは消えていった。

教育機関では、空・海・風・星・その他の自然の知識を子供たちに与えることをしなくなり、

核爆弾戦争終結から百年たった今では、自然の知識を持つものは、

大人子供を含め一握りの人間だけだった。

人工太陽が輝く日中で、秋生がそんなことを言えば、間違いなく斗織は笑い飛ばしていたことだろう。

しかし、人に染み込んだ本能というやつだろうか、人は暗闇で光を、星を求める。

もちろん、秋生と斗織も例外ではなかった。自然に対する興味が無いわけではなく、

与えられる知識が少なすぎて、想像というものすらできないのだ。

子供は不思議に思い、大人に質問し、大人は理由も述べずに子供たちを押さえつける。

それが余計に、子供たちの関心や興味を煽ると、大人たちはいい加減学習すべきであろう。

日本には謎と秘密が多すぎて、それを隠す大人に子供が不信感を抱く。

そうして、けしてポジティブではない気持ちを隠すため、紛らわせるために、

子供たちの中ではゲームが流行り、執着し、今のようなゲーム社会がうまれたのだ。

斗織は、秋生の言葉が、子供たちの思いの象徴のように感じられてならなかった。

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コメント 3

プロメテウス

興味を抱く事を禁止された世界か。

実際にこんな未来にならない事を祈りたいな。
by プロメテウス (2009-08-24 20:54) 

an

興味を抱くことを禁止された世界にもし、なってしまったら、
うち、なにも楽しみがなくなっちゃうよー。
by an (2009-08-25 12:54) 

sai

そうですね、だからゲーム社会になったんですよ。
by sai (2009-08-26 19:58) 

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